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東京高等裁判所 昭和26年(う)30号 判決

控訴人 被告人 奈良部藤二郎

弁護人  直弥

検察官 田中政義関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人直弥の控訴趣意は、末尾に添附した別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

論旨第二点について。

記録を調査するに、起訴状記載の公訴事実中第三、及び、第四の事実に、いずれも、被告人が小川茂外一名から買い受けたという成鶏は、同人らが、どこから窃取したものであるかにつき明示していないこと、及び、原判決の判示事実中、第三、及び、第四の事実においても、右と同様、小川茂、関口茂らが、どこから窃取したものであるかを判示していないことは、いずれも、所論のとおりである。而して、起訴状に公訴事実を記載するには、訴因を明示しなければならないし、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないことは、刑事訴訟法第二百五十六条に明定するところであるが、しかし、賍物故買罪は、犯人が賍物、即ち、他人の財産権を害して不法に領得したものであることの情を知りながら、これを有償取得することによつて成立する犯罪であつて、何人が、何処で、如何なる犯罪によつて領得したものであるかの如きは、その成立要件ではないと解すべきであるから、同罪の訴因を特定するには、それが賍物であること、及び、その情を知つて有償取得を受けた日時、場所、相手方、目的物、反対給付等により、他の訴因と識別し得る程度に記載すれば特定するものであつて、必ずしも、所論のように、その賍物が何処から領得したものであるかの点までをも明示することを要しないものと解すべく、又、同罪につき、有罪判決に罪となるべき事実を判示する場合においても、亦、同罪の前示特別構成要件につき、右と同様、事実を特定し得る程度に判示すれば足り、所論のように、本犯が、その賍物を不正に領得した場所までをも判示することを要しないものと解すべきところ、記録によれば、所論にかかる起訴状記載の公訴事実第三、第四の各事実には、いずれも、被告人が、小川茂らから、同人らの窃取した賍物であることの情を知りながら買い受けた日時、場所、目的物、買受代金等を明示してあつて、他の訴因と識別し得る程度に記載してあることが認められるのであるから、所論の点に関する起訴状の記載、並びに、原判決の判示には、何ら欠けるところがないものといわなければならない。又、記録によつて、起訴状の記載と、原判決書の記載とを対照するときは、起訴状の公訴事実第三が原判決の判示第三の事実に、同公訴事実第四が、原判示第四の事実に、それぞれ対応するものであることは、極めて明らかであり、なお、原判決の判示事実と、その挙示する証拠の内容とを対照するときは、判示事実のいずれの部分が、いずれの証拠のいずれの部分によつて認められたものであるかの点も、決して、所論のように不明ではないから、右の二点に関する所論も亦、理由がないものといわなければならない。してみれば、

第一、起訴状記載の公訴事実第三、第四の事実が、本件において、審判の対象となるべきことは当然であるから、この事実について審判をした原判決には、所論のような審判の請求を受けない事件につき判決をした違法はなく、

第二、原判決には、所論のような罪となるべき事実を示さずして、有罪の言渡をした違法はなく、

第三、原判決には、所論のような証拠に基ずかずして事実を認定した違法、又は、犯罪の証明のないものに対し、有罪の言渡をした違法はなく、

第四、原判決には、所論のような判決に理由を附せず、又は、理由にくいちがいがあるものということはできない。

故に、結局、論旨はすべて採用に値しない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

控訴趣意

第二点原審判決は刑事訴訟法第三百七十八条、同法第三百七十九条に該当する。

起訴状記載の公訴事実第三及第四の事実は何れも小川外一名が何れから窃取したものであるかにつき明示しておらず且原審全訴訟記録を通じて全然明らかにされていない。従つて公訴事実は特定せられていない。原判決判示の第三及第四の事実も亦小川等が何れから窃取したものであるかを判示せず判決全体から見ても明らかでない。又公訴事実第三及第四と原判決判示第三、第四の事実が如何に照応するものであるかは全然不明である。原判決においては証拠として単に関口進の第一回供述、小川茂の供述と列挙せられているが右関口の供述は具体的に該事実に触れていないし、小川茂の供述もどの供述部分がどの判示事実に結び付くのか全然不明である。然らば、

第一、起訴状記載の第三及第四については審判の対象となるべき特定事実とはならないから公訴事実は存在しないこととなり、原判決は審判の請求を受けない事件につき判決をしたものとして刑事訴訟法第三百七十八条第三号に該当する。

第二、判決に罪となるべき事実を示さずして有罪の言渡をしたもので同法第三百三十五条第一項に違反する。

第三、原判決は証拠に基かずして事実の認定をしたものとして同法第三百十七条に違反し、又犯罪の証明なきものに対し有罪の言渡を為したものとして同法第三百三十六条に違反する。

第四、更に判決に理由を附せず又は理由のくいちがいがあるものとして同法第三百七十八条第四号に該当する。

と考えられ右第二及第三の違反がなければ無罪の言渡を為すべきものであるから右違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。従つて同法第三百九十七条により原判決は破棄すべきものである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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